
日本人の国民病とも言える「胃がん」。現在でもがんで亡くなる方の原因として上位に入り、決して油断できない病気です。しかし、そんな胃がんの大きな原因となるのが「ピロリ菌」という細菌の感染であることをご存知でしょうか?
ピロリ菌の除菌は、胃がんの発生を未然に防ぐ「一次予防」として重要です。今回は、ピロリ菌の基礎知識から、検査を受けるメリット、具体的な治療の流れまでを分かりやすく解説します。
目次
■胃がんの原因のほとんど?「ピロリ菌」とはどんな菌?
まずは、胃がんのリスク因子として多いピロリ菌がどのような細菌なのか、なぜ感染するのかといった基本的な知識について解説します。
◎ピロリ菌の基本情報と感染経路
ピロリ菌は、人間の胃の粘膜に住み着く細菌です。
本来、胃の中には強い酸(胃酸)があるため菌は生きていけません。しかしピロリ菌は、特殊なバリアを張って胃酸を中和し、何十年も胃の中に居座り続ける厄介な性質を持っています。
感染するのは、胃酸がまだ弱く免疫も未発達な「幼少期(主に5歳以下)」がほとんどです。そのため、大人になってから日常生活で新たに感染することはあまりありません。
ただの胃腸炎の原因と思われがちですが、実はWHO(世界保健機関)の専門機関も、ピロリ菌を「確実な発がん性がある(グループ1)」と最高危険度に分類しています。国際的にも「胃がんの大きな原因」として強く警戒されている要注意な菌なのです。
◎感染しても「症状がない」ことが多い?
ピロリ菌に感染していても、ほとんどの方には自覚症状がありません。しかし、症状がなくても胃の中では密かに慢性的な炎症(慢性胃炎)が続いています。放置すると徐々に胃の粘膜が萎縮し、胃がんが発生しやすい状態へと進行していくため注意が必要です。
■ピロリ菌が引き起こす胃がん以外の病気・症状
ピロリ菌は胃がんだけでなく、様々な胃腸のトラブルや病気の引き金にもなります。胃の不調が長引いている場合、以下のような病気が隠れているかもしれません。
◎慢性胃炎・萎縮性胃炎
ピロリ菌の感染によって胃の粘膜に慢性的な炎症が起こります。進行すると胃の粘膜が薄く痩せてしまう「萎縮性胃炎」となり、胃もたれ、胃の痛み、胸やけなどの不快な症状が慢性的に続くようになります。
◎胃潰瘍・十二指腸潰瘍
ピロリ菌が引き起こす炎症によって胃や腸の壁が深く傷つき、えぐれてしまう病気です。みぞおちの強い痛みや、ひどい場合には出血(吐血や下血)を引き起こすことがあります。潰瘍の患者さまの多くからピロリ菌が見つかっています。
◎その他の関連疾患
胃の病気だけでなく、特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせい けっしょうばん げんしょうせい しはんびょう:血が止まりにくくなる病気)や、胃MALTリンパ腫などの原因になることも分かっています。「とくに症状がないから大丈夫」と放置せず、検査で自分の状態を知ることが大切です。
■なぜ受けるべき?ピロリ菌検査の3つの大きなメリット
「自分は腹痛がよくあるわけじゃないし、大丈夫」と思っていても、ピロリ菌検査を受けることには将来の健康を守るための大きな意味があります。ここでは、検査を受ける3つの主なメリットをご紹介します。
メリット1:胃がんの発生リスクを下げる「一次予防」になる
大きなメリットは、胃がんになりにくくする予防(一次予防)につながることです。検査をしてピロリ菌の感染が分かれば「除菌治療(お薬を飲む治療)」を行えるため、胃がんが発生するリスクを下げることができます。
メリット2:胃がんを早期発見する「二次予防」の起点になる
感染の有無や、過去に感染していたか、胃の粘膜がどのくらい弱っているかを知ることで、「自分はどのくらい胃がんになりやすい状態なのか」を正しく把握できます。これにより、今後どのくらいのペースで胃カメラ検査を受けるべきか、医師と適切な計画を立てられます。
メリット3:除菌後も「安心しきらない」ための気づきになる
「除菌をしたからもう絶対に胃がんにはならない」というわけではありません。リスクは大きく下がりますがゼロにはならないため、除菌後も医師と相談しながら定期的な胃カメラ(内視鏡)検査を続けることが非常に重要です。
検査を通して正しい知識を得ることは、定期検診を続ける良いきっかけになります。
■ピロリ菌の検査方法とは?負担の少ない検査が主流です
「検査って痛いのかな?」と不安に思う方もいるかもしれません。ピロリ菌の検査は、内視鏡を使わない身体への負担が少ない方法(非侵襲的検査)も広く行われています。ここでは代表的な3つの検査方法について解説します。
◎尿素呼気試験(息を吹くだけの検査)
検査用のお薬を飲み、前後の「吐き出した息」を調べるだけの簡単な検査です。精度が高く、身体への負担もほとんどないため、除菌治療が成功したかどうかの判定に推奨されている検査法です。
◎便中抗原検査(便を調べる検査)
便の中にピロリ菌の成分(抗原)が含まれているかを調べる検査です。こちらも精度が高く、事前に便を採取して提出するだけなので、手軽に受けられます。除菌判定にも有用です。
◎血清抗体検査(血液を調べる検査)
採血をして、血液中にピロリ菌に対する抗体があるかを調べます。ただし、「過去に感染していて現在は菌がいない(自然消失など)」場合でも陽性になることがあるため、現在の感染状況を確定するために追加の検査(呼気試験など)が必要になることがあります。
■ピロリ菌の除菌治療の流れ
検査でピロリ菌が見つかった場合は、医療機関で「除菌治療」を行います。治療は主にお薬を飲むだけで完結しますが、正しい手順で進めることが重要です。
1. お薬の内服(1次除菌)
2種類の「抗菌薬(抗生物質)」と、胃酸の分泌を抑える「胃薬」の計3種類のお薬をセットで飲みます。朝夕の1日2回、7日間連続して忘れずに飲み切ることが非常に重要です。
2. 除菌判定検査(4週間後以降)
お薬を飲み終えてから4週間以上の期間を空けて、ピロリ菌が完全に消えたか(除菌成功か)を判定する検査を行います。主に精度の高い尿素呼気試験が用いられます。
3. 二次除菌(必要な場合のみ)
一度目の治療でピロリ菌を退治しきれなかった場合は、お薬の種類(抗菌薬の一部)を変更して、再度7日間の内服を行う「二次除菌」に移行する場合があります。
■まとめ:胃がんは予防できる時代。まずはピロリ菌検査のご相談を
胃がんの大きな原因であるピロリ菌は、検査と除菌治療によって退治することが可能です。
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ピロリ菌の除菌で、胃がんになりにくくする(一次予防)
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定期的な胃カメラ(内視鏡)で、胃がんを早期発見する(二次予防)
この2つを組み合わせることで、胃がんのリスクは大幅にコントロールできるでしょう。「自分は痛みが無いから大丈夫」と自己判断せず、胃の不調が続く方、ご家族に胃がん歴がある方、健診で指摘を受けた方は、ぜひお早めに当院へご相談ください。
患者さま一人ひとりの胃の状態に合わせて、適切な検査と治療をご提案いたします。未来の健康な胃を守るために、まずは一度、専門医の診察を受けてみませんか?
